木のあるくらし
 
都市はもうひとつの森林

■木造住宅の炭素ストック■

われわれは生活の中で、年間とのくらいの炭素を出しているでしょうか。
炭素量で計算して、日本全体では、大体3億トンと考えられます。その中の民生部分か1億トン弱、産業部門で1億5千万トンほどです。
日本の国土の3分の2の森林が吸ってくれている炭素が約5400万トン。しかしこれでは全然追いつきません。
それほどわれわれはエネルギーを使用し、二酸化炭素を放出しているのです。木を伐らなければいいということではなく、いかに産業部門や生活上で消費しているエネルギーを節約していくかが問題なのです。
日本の都市には、木造住宅が連なっています。これを私は森林と見ています。森林を都市に移してきているものと見ることが出来るのです。もちろん家屋の材料となっている木材は炭素を吸ってはくれません。しかし、燃やしてしまわない限り、炭素を貯えているわけです。
生きている森林でも、炭素をあまり固定しないものがあります。いわゆる極相状態にある天然林がそれです。材として太ってこないのですから、夜に二酸化炭素を出し、昼に太陽に当たって酸素を出すという収支決算はゼロです。都市の家並みの木材は、この極相林と同じ状態にあるということです。
プラスマイナスはゼロだけれど、炭素を貯えている。つまりそれ自体で環境保全の意味があるのです。



■カスケード利用の促進■

言い換えれば、森林資源を保護しつつ活用し、木材として都市にもうひとつの森林を形成し、維持することによって、炭素の保存庫として生き永らえさせることが重要です。木造住宅は設計、施工、特に維持管理を配慮することで、人工林の成長に見合うように耐用年数をもたせることは十分可能です。また木材は、比較的リサイクルの容易な資源です。すなわち、木質系ボードとなって再び建築物や家具に戻るものや、紙やパルプ、セルロース資源として、そして燃料、飼料となり、最後には二酸化炭素として大気に戻るというカスケード型の利用が可能な資材・資源です。私達は、この木の恵みを十分に活用する責務を負っているのです。

木には人にやさしいぬくもりのある材料1
床材と疲労

■暖かく疲れない木の床■

名古屋大学の研究グループは、床材の心地よさを人間の身体の動きて調べようと、おもしろい実験をしました。コンクリートの床の上に椅子を置き、読書してもらうのですが、落ち着かなくて少しても動くとひずみ計が1万分の1ミリまで、その動きをとらえるのです。
30分もすると足の状態が変わり、落ち着きなく動かしたりします。ところが、同じ床に足のつく位置にたけ木の板を敷いて実験してみると、読書に没頭しはじめ、コンクリートの時より足の動きがずっと少なくなったのです。椅子に腰かけていながら、絶えず足の位置を変えるのは床の居心地が悪いからです。また、紡績工場で床に木を貼ったら生産があがり、欠勤か少なくなったという報告もあります。一部の医者の間では、コンクリートでつくった病室と木造の病室とでは、どうやら患者の安静や回復に差があるらしいとさえ言われています。前記の実験の続編に、ナラ材、コンクリート、ビニールタイルの3種の床を用意し、机に向かって腰をかけ、読書している状態で、足の温度の変化と目の疲労度を、四季を通じ2年にわたって調べたものがあります。その結果、疲労が少なかったのはやはり木の床でした。また、木の床は足の皮膚温を奪いませんでしたが、一方疲れかたの激しいコンクリートやビニールタイルに共通していたのは、足の温度を著しく下げてしまうことでした。


■衝撃が少なく歩きやすい木の床■

私達は歩く時、その床が硬いか軟らかいかを敏感にに感じますが、床の硬さというのはどんな影響があるのでしょうか、。同じ高さのところから、材質の違う床の上に鋼球を落とす実験の結果では、石の床が最も反撥が高く、塩ビ系や木の床は低くなっています。反撥が高いことは、床が衝撃を吸収しないからで、こうした床は歩く時の衝撃力をすべて足で受けなければなりません。そこで硬い床は歩き難く感じるのです。また、歩いている時、私達は体重の2〜3割強の力を脚の関節にかけていると言われており、関節の負担も大きいのです。従って、あまり床が軟らかすぎると、床が力を吸収してしまい、いっそう足に力を入れなければならず、これまた歩き難さを感じるのです。木の床はさまざまな種類がありますが、それでも軟らかすぎず硬すぎずちょうと歩きやすい硬さだと言われています。
当然のことながら、床の硬さは安全性にも影響します。硬い床は衝撃を吸収しないので、ころんたりした場合、怪我をしやすくなります。
木には人にやさしいぬくもりのある材料2
木は息をする

■正倉院の宝物を守った木材の調湿機能■

木には吸湿機能があります、桐の下駄をはくと気持ちがいいのは、足の裏の汗や脂を吸い取ってくれるからです。また不快感をもたらす湿度を調節してくれます。それは、吸湿性があるだけではなく、周囲が乾燥してくると水分を放出して、湿度を調整する働きもあるからです。
着物をしまうには、桐箪笥が一番というのはこのためです。
このような木材の調湿機能は、正倉院の宝物が非常に良好な状態で長年保存されてきたことからも、一般によく知られています。正倉院の宝物は、からびつという厚さ2cmのスギ材の箱に収納されています。スギ材てからびつと同様の箱を作り内外の湿度を観測したところ、図ように、箱外の湿度が50〜80%まで変化しても、箱内は65%前後に保たれていました。からびつ内の湿度も、ほとんど変動せず一定に保たれていたのでしょう。
内装材の違いによる住宅内の湿度の変化を測ってみると、図のような結果になりました。ビニール内装の住宅と百葉箱内は、一日周期で著しい湿度変化を示していますが、合板内装の住宅は湿度が50%前後で一定しています。住宅の中で人間が健康で快適な生活を送るには、乾燥のし過ぎやじめじめ感はいずれも問題があります。木は私達にやさしく。健康で、快適な住空間を提供してくれるのです。

木には人にやさしいぬくもりのある材料3

木の家は耳に心地よい
石やコンクリートのような固い材料でてきた建物は、音をはね返しやすく、一度出た音か壁や天井にぶつかってはね返りまた別の壁にぶつかってはね返り…を繰り返すことになります。音がいつまでも残ることを残響時間が長いと言いますが、一般に残響時間が長いほど、小さな音も響かせてしまい、うるさいものです。
また、反対に残響の全くない部屋にいるのも、自分の影を吸い取られるようて奇妙なものです。
木材には適度な吸音性があり、適度の残響があります。劇場やコンサートホールなど、音の響きに気を使う場所に木が多く用いられるのもそのためです。


木の殺菌作用
森の中に入ると、すがすがしいにおいに包まれます。
このにおいが樹木の発散する芳香、フィトンチットです。フィトンチットは、植物が耐えず侵してくる微生物から、身を守るためにつくりあげたものといわれます。森林には動物の死骸や種々の堆積物がありますが、悪臭を感じさせないのはフィトンチットが抗菌性や消臭効果を持ち環境を浄化する能力があるためです。また、フィトンチットは体によいことも科学的に明らかになってきています。森林の中でフィトンチットを胸一杯吸い込み心身をきたえようという森林浴も盛んです。
木は大地から伐られた後、建材などとして使われても、フィトンチットの効果はやはりあります。「ヒバて造った家には蚊がこない」「トドマツを使うと、結核菌やジフテリア菌を寄せつけない」「ヒノキには消炎、鎮静、鎮咳作用がある」「ダニの繁殖抑制効果」「スギには大脳を刺激して、脳の働きを活発にする作用がある」など、建材として使っている木材にも、思いがけないほど多くの効力がひそんているのです。